フェーズテックデジタル ヘッドホンアンプ EPA-007

PhaseTech Digital Headphone Amplifier EPA-007




(注:下記のレビューはあくまでも私が個人的に感じたものであり、その感じ方には個人差があることをご理解願います。
   また、個人による感じ方以外に音源の質や接続機器等、再生環境によっても大きな差が生じる点もご理解願います。)

(撮影:とんかつサンド/しまじろう)


【フェーズテックのディスクリートヘッドホンアンプ、EPA-007を試す!】
僕は2011年6月にUSB-D/Aコンバーター兼ヘッドホンアンプとしてラックスマンのDA-200を入手し、ヘッドホンはゼンハイザーのHD800を中
心に使用してPCオーディオの世界を堪能している。

DA-200のファーストインプレッションの最後では、すぐにラックスマンのアナログヘッドホンアンプであるP-1uが欲しくなる可能性があると書
いた。
(DA-200のヘッドホンアンプの音に不満があるわけではなく、僕の性格上から直ぐに本格的なヘッドホン専用アンプをDA-200と接続したく
なるという意味で。)

しかし2011年7月15日現在、ラックスマンでは震災の影響でP-1uの生産が滞っており、店頭在庫は勿論のことメーカーにも在庫が全く無い
状態なのだ。
(ラックスマンに問い合わせたところ、7月20日から生産が再開されるとのこと。)
そんなこんなで色々と調べていくうちに、フェーズテックというブランドから発売されているアナログヘッドホンアンプのEPA-007というモデル
の存在を知った。

このフェーズテック(正しくはフェーズテックデジタル)とは、横浜にある協同電子エンジニアリング株式会社という電子機器メーカーのオーデ
ィオブランドである。
一般にはあまり聞き慣れないブランドかもしれないが、元々は車載用のオーディオ&映像機器やコントローラ・センサ類、ナビゲーションなど
の開発や、OEMでビクターのデジタル機器の仕事も請け負っていた電子機器メーカーであり、オーディオブランドとしては150万円もするCDト
ランスポート(CDデッキ)や200万円を超えるオーディオアンプなどを開発・販売しているハイエンドオーディオブランドなのだ。
特にPCオーディオの世界では同社から2010年2月に発売されたUSB-DACのHD-7Aが評判となり、YoutubeにアップされているHD-7Aの開
発者インタビューからも音に対する相当な拘りが感じられる。

そのフェーズテックから満を持してリリースされたヘッドホンアンプであるEPA-007がゼンハイザーのHD800と相性が良いらしく、フェーズテッ
クの公式ブログ上には「今、試験中のEPA-007に接続されたゼンハイザーのHD800からは予想以上の素晴らしい音楽が奏でられています。」
と書いてあり、実際に東京南青山のゼンハイザージャパンの青山ショールーム内にはEPA-007が試聴用ヘッドホンアンプとして展示されてい
るとのこと。

ということで早速EPA-007を取り寄せてみた。


【EPA-007とは】
このヘッドホンアンプは他社のものと少々設計思想が異なるのが大きな特徴だ。
他のフェーズテック製品もそうなのだが、基本的に音の鮮度を確保することに重点を置いている。
そのため、オペアンプを使用せずに全段ディスクリート回路構成の採用と最小のデバイス構成にて設計されている。
また、ヘッドホンはモデルによってインピーダンスが十数Ωから数百Ωと幅が広く、全てのヘッドホンでも最適な制動力が得られるように設定
をするのは難しい。
そこで、EPA-007ではLOW(200Ω以下)、MID(200〜500Ω)、HIGH(500Ω以上)といった3段階のインピーダンスセレクターを設け、更に各イン
ピーダンス設定内においてもダンプコントローラーによって無段階に制動力を可変させることにより、それぞれの環境に適したヘッドホンの鳴
りを調整することが可能となっている。

また、電源トランスには、最近オーディオ界で評判が良いとされているRコアタイプが採用され、電源トランスから後ろは完全に独立したデュア
ル・モノアンプとなっており、L-Rの配線が完全に分離したバランスケーブル型ヘッドホンをデュアルモノ構成で使用可能となっている。
ケースには2mm厚のアルミ板を使用し、フロントパネルにはアルミの削り出し材が採用されている。
また、同社では内部部品に埃が付着することによる音質への影響を考え、ケースはあえて密閉構造としながらアルミ材のシャーシによる排熱
構造を採用している。

本機はアナログヘッドホンアンプであるため、入力は勿論アナログのみとなるが、RCAコネクタの他にXLRコネクタを装備することで、DA-200
のようなXLRバランス出力を備えた機器との接続にも対応している。
フロントパネルには2つの標準プラグ端子があるが、XLRカプラを使用した4線式のバランスタイプのヘッドホンの場合は、変換ケーブルを装
着することでデュアルモノ配線仕様となり、性能を最大限に発揮することができるという。
勿論、通常のシングルエンドタイプの配線でも問題無く接続することができ、この場合はどちらか片側に6.3mmプラグを挿し込めばOKだ。





↑フロントパネル
 二つのヘッドホンジャックはデュアルモノ接続に対応し、ジャックの間にある切り替えスイッチによって
 シングルエンド接続とデュアルモノ接続を切り替える。
 中央左側のつまみがインピーダンスセレクターで、中央右側のつまみはダンプコントロール。
 2つのつまみの中央にある切り替えスイッチはゲイン切り替えスイッチとなる。



↑リアパネル
 入力はRCAとXLRの両カプラーに対応している。
 

今回、EPA-007についてリサーチをしていた際に、何故かEPA-007のケース内部の画像を見つけ出すことが出来なかった。
ということで、興味のある方のために画像を用意してみた。
デュアルモノ回路構成のため、電源トランスから後は電源用コンデンサーも含めてL/R用に独立しているのがお解かり頂けると思う。
ただ、部品点数が思ったよりも少ないと感じるのは、入力信号の鮮度を保つ為にあえてシンプルな回路構成になっているからなのだろうか?
ちなみに本機の取扱説明書によると、慣らし運転のために1週間程度の通電を行い、電子部品の活性化が必要と書いてある。
(今回のレビューに関しては既に実施済)


↑EPA-007の内部。(画像をクリックすると、もう少し大きな画像が見られます。 :約960KB)
 

【レビュー環境について】
それでは実際に音の感想を述べる前に、レビュー時の環境について説明したい。

再生側の環境はDA-200のレビュー時と基本的に同じ。
自作PCのOSはWindows 7 (32bit)で、CPUにはCore i7の860を、マザーボードにはギガバイトのGA-P55-UD3を使用している。
そのマザーボード上のUSB端子とD/AコンバーターのラックスマンDA-200をオーディオグレードのUSBケーブル(フルテックのFormula 2)にて
接続。
DA-200とEPA-007の接続にはXLRケーブルによるバランス接続と、RCAケーブルによるアンバランス接続の両方を試してみた。

再生ソフトウェアにはfoobar2000を使用し、WASAPI排他モードに設定してWindowsのカーネルミキサーはバイパスさせている。
再生ファイルは、オスカー・ピーターソンやビル・エバンスなどのジャズを中心に、ロックやクラシックなど様々なジャンルのFlacファイルを再生。
(16bit 44.1kHz〜24bit 96kHzを使用)
使用するヘッドホンはゼンハイザーのHD800を中心に色々と試してみた。

ちなみに本機はデュアルモノ接続に対応しているが、僕のHD800は純正のままのシングルエンドプラグ仕様のためにデュアルモノ接続を試す
ことはできない。
そのため、今回は通常のシングルエンド接続のみのレビューとなる。


↑今回のレビューに使用したUSB-DACのラックスマンDA-200とゼンハイザー・HD800ヘッドホン
 

ゼンハイザー HD-800のレビューは→こちら
 
ラックスマン DA-200のレビューは→こちら
 




【実際に音を聴いてみよう】
先ずはDA-200と本機をXLRケーブルにてバランス接続をし、HD800で聴いてみた感想だが、、、。
なんと驚くべきことに、DA-200のヘッドホン端子にHD800を直に挿し、DA-200に内蔵されているヘッドホンアンプのみを使用した環境と全く同
じ出音なのだ。
そんなはずは無いと思い、様々なジャンルの音源を片っ端から聴き比べてみるが、本当にあり得ないほど酷似している。
DA-200はXLR出力をしていてもヘッドホン出力は生きている為、EPA-007とDA-200のヘッドホンジャックを瞬時に挿し換えすることで、双方の
音のイメージを脳内に保ったままの比較が可能だ。(ヘッドホン保護の為、ボリュームは絞ってから抜き挿しはしているが、、。)
しかし、音の広がり感や低域〜高域の量感、音の厚み等々、両者の音質に違いは感じられない。

ここで、あるひとつの要因が大きく関与していることが想像できる。
その要因とは、このフェーズテックのEPA-007は音の鮮度を保つ事を重視して設計されているという点だ。
つまり、DA-200のD/A変換からアナログアンプ回路を経ていく過程で生成されて出力されるトーンに対し、何も足さず何も引かずに増幅させる
ことで、DA-200の持つトーンがそのままEPA-007の音として出力されたと予想される。
そして、DA-200に内蔵されているヘッドホンアンプもまた、何も足し引きしない味付けになっている為、両者の出音が酷似する結果となったの
かもしれない。
そのため、DA-200とEPA-007を繋げた際の音の感想としては、DA-200のレビューを読んでみて下さいという事になってしまう(苦笑)
勿論、DA-200のレビューにも書いてあるように、その音質がとても素晴らしい音であることは間違いない。

ここで、試しに僕のPC内にセットされている、ピュアオーディオ用サウンドカードのサウンドブラスター X-Fi Titanium HDのRCA出力とEPA-007の
RCA入力を接続させてみたところ、今度はTitanium HDの音色のまま増幅されて出力された。
つまり、EPA-007に接続させる上流の環境によって出音に大きな差が発生すると思われるので、EPA-007の購入を検討している方が僕のレビュ
ーを見ても、読者の方の環境が違えば音の印象も変わってしまうということだ。
これがシングルエンド接続ではなく、デュアルモノ接続ならばもっと違う印象になるのだろうか?

次に、本機の売りであるダンプコントロールを試してみる。
これはヘッドホンの制動力を調整することで、音をソフトからハードに可変させることが出来るというものであるが、実際にはソフト側に回すと
音に厚みが生まれ、ハード側に回すと若干音量が下がり、音が軽くなる印象。
特に音が柔らかくなったり固くなるようなイメージではなく、また、大きく音質が変わるという感じでもない。
ちなみに他のオーディオテクニカのヘッドホン達も同じような変化量で、僕の環境下ではSOFT側MAXが一番自然に感じられ、音質的にもDA-
200に最も近くなる。
ちなみにHARD側に目一杯回すと音にパンチ力が無くなり、元気の無い音に感じられるのだが、低域が増幅傾向のチューニングになっている
ヘッドホンの場合は、HARD側の方がバランス的に良くなるかもしれない。

続いてRCAケーブルによるアンバランス接続を試してみるが、こちらは若干音場が狭くなり、透明感も微妙に損なわれるように感じられた。
しかし、XLRによるバランス接続と瞬時に比較した場合に何とか判る程度の差で、RCA接続でも十分に高音質だ。

尚、6時間以上通電させたままの状態においてもケースが熱くなるようなことは無く、室温程度のままであった。
また、HD800との接続時において、ボリューム位置を11時あたりに設定したまま数時間の音出しをしても本体は熱くならなかった。


【最後に】
USB-DACのDA-200と本機を接続させた場合の音質に関しては、DA-200にヘッドホンを直に接続させた場合と殆ど(全く?)同じ出音であっ
たのは実に意外な結果であった。
逆に言えば、それだけDA-200に内蔵されているヘッドホンアンプ部が優秀であったという事にもなるわけだ。
つまり上にも書いたように、このEPA-007は接続するプリアンプやDACの影響を大きく受けるので、人によって評価が大きく変わると思われ
る。
特に、僕と同じようにDA-200をUSB-DAC内蔵ヘッドホンアンプ代わりに使用している方が、音的なステップアップを求めて本機の導入を考
えているとするならば、お勧めとは少々言い難い。

しかし、現時点ではヘッドホンアンプ自体を持っていない方や、お持ちのヘッドホンアンプ(DA-200以外で)の出音に不満のある方ならば、本
機の購入を検討してみる価値は十分にあると思う。
また、数多く存在するヘッドホンアンプの中で、音の厚み感を調整することができることも本機の大きなメリットでもあるだろう。
ただ、実売価格で11万円ほどしてしまうものなので、出来る限り試聴をしてから決断をした方が良いだろう(苦笑)

(記:2011年7月15日)


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