エスプレッソの抽出温度について







【エスプレッソの抽出に最適な湯温とは?】
今から5年ほど前に、今回と似たようなタイトルで「カプチーノの温度について」という記事を執筆していた。
この時の記事は、エスプレッソとミルクが混ぜ合わされてカップに注がれた状態になっているカプチーノの温度について検証したものだが、今回はエスプレッソを抽出する
際のお湯の温度について執筆してみる。

さて、今回の記事を読み始めた方の中には、「あ〜、、自分のエスプレッソマシンは温度調節機能が無い機種だから関係ないや、、、。」と思われた方がいるかもしれない。
しかし、今回はデロンギ等の家庭用機においても十分関係がある内容なので、少しでもお手持ちのマシンの持つ性能を上手に引き出したいとお考えの方にとっては、何かし
らのヒントが得られるかもしれない(苦笑)

ということで、エスプレッソを抽出する際に最も適した湯温とは、いったい何度なのだろうか?
この点について調べていくと、実に興味深い事実が色々と判明し、単純に「エスプレッソを抽出する」という作業に対して幅広い変化を与える事ができる可能性があること
を知ることができる。

エスプレッソ抽出の適正温度については人によって様々な見解があり、僕が持っている幾つかの専門書においても全てバラバラだ。
しかし、海外の情報も含め、一つの傾向として判明したことは、比較的古い、もしくはドリップコーヒーを専門とする方が監修された情報では90℃あたりを基準とし、エス
プレッソが専門のバリスタの方が監修された場合の情報では、93℃〜96℃あたりが基準となっているようだ。
この両者の温度の違いには、しっかりとした根拠がある。
これはドリップコーヒーでも同じことなのだが、コーヒーを抽出するお湯の温度が低い場合は味に酸味が強めに出る傾向になり、逆に温度が高いと苦味とコクが強めに出る
傾向になる。
そこで、前者の90℃が基準と説明されている方々がエスプレッソ用の豆として紹介しているのは、表面に浮いた脂によって艶々と黒光りしているようなイタリアンロースト
であり、後者の93℃〜96℃が適正温度とされている有名バリスタ達が紹介している豆は、イタリアンローストよりも煎りが浅めのフルシティ〜フレンチローストである点だ。
つまり、「イタリアンロースト=苦味が強い→低い温度で苦味を抑える」となり、「フルシティ(フレンチ)=適度な苦味→高めの温度で苦味とコクを強調」という関係が
成立しているわけだ。(更に付け加えると、前者は豆の使用量が少なめで、後者は多めでもある。)
実際、僕のラ・マルゾッコGS/3も初期設定では93.5℃に設定されており、最近では豆のローストにもよるが、93℃〜96℃の間で気分によって調節している。

では、一般的な普及価格帯の家庭用マシンの場合、抽出湯温は何度に設定されているのだろうか?
実際に、K型熱電対デジタル温度計を使用して測定をしてみた。
この温度計のセンサー部は、一般的なクッキング用の温度計に多い金属棒タイプではなく、柔軟なワイヤーの先端に5ミリほどの熱電対センサーが裸で剥き出しになってい
るタイプのため、触れた物の温度が瞬時に測定されるという優れもの。(金属棒タイプでは徐々に表示温度が上がるため、測定が確定されるまでにラグが生じてしまい微妙
な温度変化に表示が追従できない。)

このセンサーをポルタフィルターのスパウト先端から挿し入れてシャワースクリーン面にセンサーが触れるようにセットし、シャワースクリーンから排出されるお湯の温度を
直接測定してみた。
ちなみに、普及価格帯の家庭用機として検証に使用したマシンはデロンギのBAR14N。
2014年11月現在では生産終了品ではあるが、内部のボイラー及び周辺パーツそのものは現行のEC211やECO310シリーズと共通だ。

ここで、とても興味深い測定結果が出た。
マシン本体が完全に冷え切っている状態から電源を入れ、数分後にスタンバイランプが点灯して抽出準備完了となった直後に抽出ボタンを押し、その時点で排出されるお湯の
温度を測定したところ、90℃どころか80℃にも満たない78℃前後であった。
しかし、これは当然の結果で、ボイラー内の温度が設定値に達したとしても、シャワースクリーンまでの経路が全く温まっていないため、一発目のお湯の熱量の殆どがそれら
の経路に吸収されてしまったからだ。
この状態から再度加熱が始まり、2度目のスタンバイランプが点灯した時点で湯通し&測定したところ、今度は85℃となった。
そのまましばらく待ち続け、一発目のお湯出しから3分間程度が経過したところで90℃を超えはじめ、5〜6分間が経過したあたりでは95.7℃をマークし、このあたりがピーク
温度となった。
この96℃弱という設定温度、若干高いと思われるかもしれないが、実際にはシャワーヘッドからお湯が排出されるのと同時に、ボイラー内に送り込まれるリザーブタンクから
の水によってすぐに91〜93℃程度にまで下がるため、この分を考慮した設定になっているのだろう。(あくまでも憶測だけど、、、。)

つまり、フルシティ〜フレンチローストの豆をデロンギの家庭用機によって抽出する場合、マシンに電源を入れ、ヒートランプが点灯して抽出スタンバイOKとなったからと
いってすぐに抽出を始めるのではなく、一旦100cc〜200cc程度の湯通しを実行し、さらに5分間以上は待った方が、よりベストな状態で抽出が行えるということになる。

後は、エスプレッソとして飲む場合とミルクと混ぜる場合とで調節したり、また、豆の焙煎具合などのお好みによって、暖機開始からの置き時間の長さ加減で調節をすればより
自分の理想に近いエスプレッソを作りだす事が可能となるのではないかと思う。
(記:2014年11月18日)

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