Gibson Vintage M-69 Pickup Ring

ギブソン・ヴィンテージ M-69 ピックアップ・リング(エスカッション)





       
(画像は全て1959年製のM-69ピックアップ・リングにて撮影)



【ただ、ピックアップを固定するだけのパーツなのに・・・】
エレクトリックギターのボディに、ハムバッカー・ピックアップを固定させるパーツとして、プラスチック製の四角い枠の形をした“エスカッション”というパーツが使用されている。
そんな中でも、1950年代後半から1960年代半ば過ぎあたりまでの間、ギブソンのエレクトリックギターに使用されていたエスカッションはちょっとばかり特別だ。

ちなみに、このパーツのことを日本国内では「エスカッション」と呼んでいるが、欧米では「ピックアップ・リング(Pickup Ring)」、あるいは「マウンティング・リング(Pickup Mounting Ring)」という呼び方が一般的。
海外最大手オークションサイトのイーベイ(ebay)で検索をする際にも、「Pickup ring」とか、「Mounting Ring」と入力して検索しないとヒットしない。
ということで、ここでも以降からはエスカッションではなく、あえてピックアップ・リングと呼ぶことにさせて頂く(苦笑)

ギブソンのレスポールをはじめとする50年代後半のモデルから、60年代半ばのSGなどに使用されていたピックアップ・リングには、フロント・ピックアップ用として厚みの薄いものが使用され
リア・ピックップ用には厚みのあるピックアップ・リングが使用されていた。
この時代のピックアップ・リングには、裏面に「M-69」と刻印されている事から、「M-69 エスカッション」とか「M-69 ピックアップ・リング」等と呼ばれている。

ところで、冒頭に1950年代後半から1960年代半ば過ぎあたりまでの間に使用されていたピックアップ・リングが、ちょっとばかり特別だと書いた。
その理由は簡単で、エレクトリックギターのヴィンテージ市場において、最も取引価格が高騰している1958年〜1960年の間に製造された、ギブソン・レスポールで、いわゆる“バースト”に搭載されているピックアップ・リングと同じパーツであると言う事がひとつ。
二つ目の理由として、バースト以外の1960年代半ば過ぎあたりまでの間に製造されていた、同社の各種モデルに使用されており、
これらのモデルに関しても現在では貴重なヴィンテージギターとして扱われている事から、パーツ自体も同様の扱いになっている。

これらの「M-69 ピックアップ・リング」は、1957製年のレスポールに搭載されているものも、1965年製のSGに搭載されているものも、全く同じ金型によって成形されている。
カラーバリエーションに関してはクリームとブラックの2バージョンがあるが、この両者についても同じ金型が使用されている。
しかし、ヴィンテージ市場においてはクリームとブラックとでは、その取引価格に大きな差が生じている。
クリームに関しては、そもそも市場に出回る事が滅多に無く、取引相場も無いに等しい。
ちなみにイーベイでのクリームに関する過去数年間の取引価格を調べてみたところ、フロントとリアのセットにて4,000ドルから7,500ドルにて売りに出されていたが、果たしてこの価格で落札されたかどうかは不明だ(汗)

ところが、このカラーがブラックになると、イーベイでも多くの出品がされており、取引相場もフロントかリアのどちらか一つ当たり80ドル〜120ドル、フロントとリアのセットでも200ドル程度と、クリームとは比べものにならないほどリーズナブルな値付けになっている。
これは、クリームが1957年から1960年までのレスポール・スタンダードにしか使用されていないのに対し、ブラックについてはレスポール・スタンダード以外の全てのハムバッカーPU搭載機種に使われていることと
1960年代半ばあたりまで採用され続けていたことから、個体数が圧倒的に多い事による。
とは言っても、単にピックアップをボディに固定する目的でメーカーも不問であれば、500円程度から売られている部品であることを考えれば、それでも高価だが(汗)
クリームに関しては滅多に出回らず貴重で高価となれば、当然のことながら、これらに取って代わるレプリカパーツが各社から製造販売されている。





この「M-69 ピックアップ・リング」、フロントとリアの2ピックアップ仕様の場合、フロント用の裏面には「M-69」、「7」、「MR491」、「PHI」という4種の刻印があり、厚みは薄い側が約4.06mm、厚い側では約6.30mmとなっている。

これに対してリア用の裏面には「M-69」、「8」、「MR490」、「PHI」という4種の刻印が施されており、厚みは薄い側が約10.65mm、厚い側では約12.56mmとなっている。
(厚さの数値は、ミツトヨ製のデジタルノギスによる実測値)

この、M-69ピックアップリングは、フロントとリア、そしてクリームとブラックのどちらも「M-69」の「M」の刻印に欠けがあり、リア用に関してはさらに「MR490」の「M」の刻印も判別困難なほどに潰れている。
「M-69」の刻印が欠けている理由については不明だが、「MR490」の文字潰れに関しては、隣接しているネジボス部の金型に何らかの溶接を伴う修正が施された痕だと言われている。
その証拠に、この部位のネジボスだけが他のボスに比べて不自然に細く、変にテーパーが付けられ、足元もぐちゃぐちゃだ。
また、「MR491」の特徴としては、「7」の刻印の背後に、葛飾北斎の有名な作品である「神奈川沖浪裏」に描かれている大波のような凸模様が見られる。


(MR491:フロントPU用)

↑「M-69」の「M」の一部が欠けており、数字の「7」の右側に波のような模様がある。


(MR490:リアPU用)

↑こちらも「M-69」の「M」の一部が欠けている。
 また、「MR490」の「M」は判別が困難なほどに潰れている。


各メーカーから発売されているレプリカパーツもこれらの特徴を可能な限り忠実に再現すべく、様々な工夫がなされている。
しかし、オリジナルには微細な金型のキズや修理痕、射出時の微妙なヒケやバリなどがあり、これを全て完璧に再現しているレプリカは僕が知る限り存在していない。
海外のレスポールに関する掲示板、「The Les Paul FORUM」では「Bartlett Guitar Parts」というメーカーのレプリカ・リングが決定版としての評価を得ているようだが
細かい部分をみると、やはりオリジナルとは異なる部位がいくつか確認できる。

以前は日本国内のデッド・ミント・クラブ(DMC)のレプリカ・リングも高評価であったが、意図的にオリジナルとは似せていない部位がいくつかある事から、最近の海外での評判は今一つのようだ。
たとえば、オリジナルでは上にも書いたように「MR490」の「M」の文字が潰れているのに対し、DMCでは再現されておらず、普通に「MR490」と刻印されている。
しかし、「Bartlett Guitar Parts」では、この「M」の潰れまでもリアルに再現されている。

現行の本家本元のヒストリック・コレクションにもM-69と刻印されたピックアップ・リングが搭載されてはいるが、細かい部位がオリジナルとは異なっている。
しかし、2015年からリリースが開始された「トゥルー・ヒストリック」に搭載されているピックアップリングが実は凄い。
画像だけを見る限り、海外では最も評価されている「Bartlett Guitar Parts」をそのまま使ってる?とも思えるくらい、高い次元で再現されたものになっている。
「M」が潰れた「MR490」も忠実に再現されているという点では、むしろDMCよりもリアルに仕上がっているようにも思える(汗)

ちなみに、今回取り上げたMR491とMR490のピックアップリングは、今やヴィンテージギターとしての取引相場が8000万円とも1億円とも言われている、1958年製のコリーナ・エクスプローラーにも全く同じものが搭載されている。
そう考えると、ちょっとテンションが上がってしまう(苦笑)
(記:2,016年7月10日)


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