PC電源 ENERMAX PRO87+ 600W(EPG600AWT)

〜電源容量を総消費電力(W)で選ぶことの大きな罠とは?〜





<Photo :とんかつサンド>



【あなたのパソコン電源、本当に容量は足りていますか??】
あなたがパソコンの電源ユニットを購入する場合、その電源容量は何を基準に決めているのだろうか?
電源に対して関心の薄い方の場合、主要パーツの総消費電力に対して、総出力にある程度の余裕さえあれば良い、という単純な
考え方でPC電源をチョイスしている方が多いのではないだろうか?
例えば、全てのパーツがフルに稼動した時のピーク電力が330w程度の場合、単純に550W程度の電源を積んでいれば大丈夫だろ
うという考え方。
しかし上記のような場合、実際には容量が不足してしまっているという可能性も大いにあり得るのだ。


【正しい電源容量の判断方法とは】
パソコン用の電源とは、ここで説明されるまでも無くご存知のとおり、各パーツに電力を供給する役割を担うパーツである。
そのPCの各パーツは3.3V、5V、12Vといった電圧で動いているのだが、実は電源側の各電圧の系統にはそれぞれに容量が決めら
れている。
そして、電力を多く消費するパーツが一箇所の系統に集中してしまった場合、総量的には余裕があったとしても結果的に電力不足と
なってしまい、PCは正常に動かなくなってしまうのだ。
実際、僕のメインPCも密かにこの問題に直面していた。

僕のメインPCのパーツ構成は、Core i7-860CPUに2GBメモリ2枚、9600GTのグラフィックボードに内蔵HDDが3台、それとDVDマルチ
ドライブ1台というもので、2010年8月現在としてはそれ程大げさなパーツ構成ではないと思う。
ちなみにピーク時の総消費電力は約330.1Wで、搭載電源は550Wのものだ。
ところが僕が積んでいた電源(エバーグリーン、サイレントキング4 550W)では容量ギリギリか、むしろ足りないくらいであったことが発
覚した。
なぜならば、ここで注目しなくてはいけないのは総消費電力(W:ワット)よりも、個々の系統の電流量(A:アンペア)の方が重要だから
だ。


【電源選びは12Vの容量に注意!!】
PCパーツの中で電力を消費する主なパーツの殆どは12Vで動いているのだが、最近の自作PC用電源は12Vが2系統以上に分割され
た製品が主流となっている。

例えば2系統の場合は「+12V1」と「+12V2」のように分かれており、このうち「+12V2」はCPU専用で「+12V1」はCPU以外の主要パーツ
(HDD、光学ドライブ、マザーボード、グラフィックボード、PCI接続機器など)のためのラインとなっている。
(注:製品によっては、+12V1がCPU用で、+12V2がその他主要パーツ用になっているものもある)

ここで、僕がこれまで使用していた電源である、サイレントキング4の仕様表を見て頂きたい。


↑(サイレントキング4の仕様表)
  赤丸で囲まれた16AがCPU以外の主要パーツ用の12V容量となる。


550Wの12Vの欄が「+12V1」と「+12V2」に分かれており、それぞれの電流容量は16Aと18Aに設定されている。
これを分かりやすく消費電力に換算すると、「電流×電圧(12V)=消費電力」の式から、前者(16A)は合計で192W、後者(18A)は216W
となる。
後者(+12V2)はCPU専用ラインであり、僕が搭載しているCPU(Core i7-860)はピークでも95W(約8A)であり、モンスター級CPUである
Core i7-980X-Extreme Editionですら130W(約11A)なので、+12V2のラインに関してはおおよそ問題は無い。

ところがもう一方の+12V1ラインの上限は16A(192W)となっている。
つまり、CPU以外の主要パーツの総消費電力を合計で192W以内に収めなくてはいけないという事なのだ。
先にも書いた僕の構成における総消費電力量である330.1WからCPU分を差し引くと235Wとなり、更に12V以外のパーツ分を差し引い
ても192.7W(16.06A)なので、このままでは上限の16Aを上回ってしまう計算となる。

しかし、これはあくまでも主要パーツであるHDDや光学ドライブ、グラフィックボード等全てが全開に動作した時のものであって、実際に
そのような状況は考えにくい。
それでも僕の使い方から考えられる条件でのピーク電力を再計算すると182W(15.2A)となり、上限の16Aぎりぎりであることには間違
いない。
また、電源本体の熱ダレによる出力ロスの可能性なども考えれば、やはり足りなくなる可能性は高い。

その他で問題なのは、将来的に今のグラフィックボード(9600GT)をグレードアップすることもできないのは辛い。

ちなみに、ご自分のPC構成における消費電力を算出するのには右記のサイトが便利だ。→皮算用計算機


【一つの部屋でドライヤー、電子レンジ、電気ストーブを同時に使うと・・・】
自作PCに関する解説などには必ず「電源は安物よりも良い物を選べ!」と書かれている。
しかし、その理由の多くは「良い物は信頼性、耐久性、安定性が優れているから安心できる。」といった内容のものが多く、それだけで
はいま一つ説得力に欠けるような気がする。
また、安物の電源を載せたところ、総出力量は余裕があるのにフリーズやブルースクリーンが頻発するといった声を時々耳にする。
それら不具合の原因の一つとして、安物の電源は12Vの電流量(アンペア)に余裕が無いことから、アンペア不足が原因で不具合を発
生させている可能性が高いということもあるのだ。

最近の普及価格帯の電源(500〜600W)の場合は+12V1の上限が20A程度に設定されていることが多いのだが、仮に僕の冒頭に書
いた構成のままグラフィックボードを9600GTからGTX460に換装したとすると総電流量は24.68Aになってしまい、上限20Aの電源ではア
ンペア不足となってしまうのだ。

さて、ここまでの説明を読んでいくうちに、これって家庭用コンセントと分電盤のブレーカーの関係とよく似ていると思った方もいるので
はないだろうか?

家全体では60A(6000W)の容量があったとしても、部屋ごとや区間ごとに20Aなどの容量が決められており、一箇所で20Aを超える電
力を同時に使用すると(1000Wのヘアドライヤーと1200Wの電気ストーブと600Wの電子レンジなどを同時に使用)ブレーカーが落ちてし
まうのと同じことなのだ。


以上の説明で、「総消費電力量が330Wだから550Wの電源で大丈夫」という単純な考え方は危険であると言う意味が理解できたと思
う。

つまり総消費電力にある程度の余裕があり、更に+12V1の総電流量においても余裕のある電源を選択するのが正しい電源の選び方と
いうことなのだ。(もう一度言うが、電源によっては+12V1がCPU用になっているものもある)
逆に言うと、12Vに余裕のある電源を選択することで、必然的に総消費電力においても余裕のある電源を選ぶ事になるのだ。

また、最近では12Vが3系統(+12V3)から4系統(+12V3と+12V4)になっている製品もあり、これらは実質的にCPU以外の12V容量が30〜
60A程度(総出力による)まで備えられていることになり、更に安心できるだろう。

ただし系統が別れている場合、製品によってはどのケーブルが一体何番の系統なのか判りにくいという事もある。
これに対し12Vがあえて1系統にまとめられている製品もあり、この場合は12Vが一箇所の系統に60Aや70Aといった大容量(これも総出力
による)に設定されている。
そのため、ケーブル類の振り分けを気にする必要が無い。

ちなみにワット数の大きな電源を積むと余計な電力を消費してしまうのでは?と勘違いする人がいるが、決してそういうことではない。
解りやすいもので例えるならば、部屋のコンセントの容量が1500W(15A)であっても2000W(20A)であっても、接続する機器の消費電力が
500Wならば消費される電力はあくまでも500Wなのと同じことなのだ。

ただし出力効率の点から見ると、総出力に対して50パーセント負荷くらいが最も効率が良くなるので、これを目安にすると良いだろう。
(それも2〜3パーセントくらいの差ではあるのだが、、、。)

さて、随分と前置きが長くなってしまったが、ようやく僕も電源の交換を行うことにした。(ていうか、今頃?という感じもするが・・・。)



【80PLUS認定品は省電力の証し?】
今回僕が選んだものはENERMAX社のPRO87+(600W)というもの。
この製品は、電源変換効率において事実上の最上級ランクである80PLUS GOLDの認定を受けている。(変換効率87パーセント)
事実上のというのは、2009年末にGOLDの更に上位ランクである80PLUS PLATINUMが設定されたものの、2010年8月4日現時点では認
定を受けた製品はFSP社のFSP450-60PTMという製品のみであり、更に日本国内では正規販売されていないため。

ただ、僕はこの80PLUS認定に関して、省電力としてのメリットについてはそれほど意識していない。
というのも現在市販されている80PLUS STANDARD、BRONZE、SILVER、GOLDの4ランクの変換効率差はそれぞれ2〜3パーセント程度
であり、それぞれにおいて大した差は無いと感じているからだ。


↑80 PLUSのランクごとの変換効率


某製品の広告には、80PLUS未取得品(変換効率80ハ゜ーセント未満)と80PLUS GOLD(変換効率87パーセント)の電源において、3年間使い
続けると電気代の差額は21,000円にも達してしまうと書かれている。
しかし、使用条件が500W負荷のまま8時間×365日というあり得ない条件であり、かなり強引な計算結果だ。

これを僕の使用条件で比較してみよう。
仮に一日の使用時間を朝2時間、夜6時間の計8時間とし、消費電力をアイドル時の約100Wと、ピーク時の約330Wのおおよその中間であ
る200Wとする。
これを80PLUS未取得品の変換効率を75パーセントとした場合、必要な入力電力は267Wで、80PLUS GOLD(変換効率87パーセント)の場
合の入力電力は230Wとなり、その差は37W。
37W×8時間×365日とすると、年間の電力差は108kWhとなる。
更に電気代を22.86円/kWhとすると、1年間の電気代の差額は2,470円。
この金額が高いか安いかは微妙なところだが、僕はこの80PLUS認定に関して、その製品の品質を判断するための指標としてとらえている。
(注:算出した消費電力と金額はあくまでも目安であり、実際の結果とは異なります。)


【PRO87+は3系統の12Vを備えているけれど・・・】
ちなみにPRO87+は3系統の12V電源を備えており、それぞれに25Aの容量が与えられている。
ただし、3系統の合計で50Aという上限が設定されているので、単純に25A×3系統=75Aということにはならない。
これは3系統の合計で50Aまでの電流を使うことは出来るが、1系統には最高でも25Aまでしか使うことが出来ないと解釈した方が正しい。
つまり全50Aのうち、1系統はCPU専用ライン(PRO87+の場合は+12V1がCPU用)ということで約8〜10Aを占有し、残りの2系統(+12V2と
+12V3)で40〜42Aを振り分けて使用できるということになる。



↑(PRO87+ 600Wの仕様表)
  +12Vが3系統に分かれており、それぞれの容量は25Aになっているが、合計では50Aとなっている。


【PRO87+とMODU87+の違いとは?】
このENERMAX社のPRO87+(600W)とよく似たモデルにMODU87+という製品も存在する。
これら2モデルの違いは、PROは全てのケーブルが本体に直付けされているのに対し、MODUはモジュラーケーブルタイプといって、24Pメ
インボード電源ケーブルと、CPU用電源ケーブル以外の各ケーブル類に着脱式のモジュラーケーブルを採用している。
つまりMODU87+は、使わないケーブルを電源本体から外しておくことが出来るということだ。

コネクタ数に関しては、SATA電源コネクタがMODUは8個に対しPROは7個、ペリフェラル電源コネクタがMODUは8個に対してPROは6個と
なっており、PROはMODUに比べてコネクタ数がSATAで1個、ペリフェラルで2個少ないが、総出力が600Wの電源である事を考えればPR
Oのコネクタ数でも十分だろう。
それ以外の部分(本体性能)に関しては全く共通だ。

ちなみにMODU87+とPRO87+は化粧箱もソックリで、ショップの棚には隣り合わせに陳列されていることも多い。
そのため、よく確認をせずにレジに持ち込むと間違ってしまう事があるので注意して欲しい。
実際、僕も間違えてしまったのだが、、、(苦笑)


↑写真はMODU87+
 ケーブルはカプラー式となっている。


【僕がPRO87+を選んだ理由】
僕がMODU87+ではなくPRO87+を選んだのには他愛も無い理由がある。
それは、各ケーブルがメイン基板にハンダによって直付けされているから。
MODU87+はケーブルをカプラー化させるにあたり、メイン基板とカプラー端子の間に薄くて小さなプリント基板が介されている。
勿論、実用上は全く問題の無い部分なのだろうが、オーディオやギターのアンプ系に少しでもハマった事のある者にとっては、極力ケーブ
ル類はハンダ等によって直付けされていたり、余分な基板を挟まない方が気分的に安心するものなのだ(苦笑)
これからこの両者のどちらかを買おうと考えている方は、ケースの空きスペースやカプラー数、あるいは好みでチョイスしても全く問題は無
いと思う。(ちなみに価格設定はMODU87+の方がカプラー化に伴い、若干高めに設定されている。)


【ということで、PCケースにセットしてみる】
さて、一見して高級感溢れる化粧箱を開けてみると、まずはド派手な金メッキが施された13.9cmファンと、まるで南米の毒蛇を髣髴とさせ
る外観のケーブルが只者ではない雰囲気を醸し出している。
このあたりは好き嫌いが大きく別れるところであろうが、僕としては決して嫌いではない(爆)
まあ、僕の場合は中身の見えないケースの中に隠れてしまうので、この外観の派手さは特に意味をなさない部分ではあるのだが、、、。


↑とても豪華な化粧箱。



↑目に眩しい金メッキファンと、毒蛇のような柄のケーブルが目を引く。



↑本体と付属品。


早速ケース内に取り付けを行い、使わないケーブルを纏めてみたのだが、元々ケーブルに折りたたむ為の癖が付いていることもあり、思
っていたよりも簡単に余ったケーブルを処理することができた。
僕の場合はフロントパネル下面のHDD前面から空気を吸い込み、背面の上部から抜ける構造なので、特にエアフローを阻害していること
もなさそうだ。
購入前にはもっとケーブルが嵩張って邪魔になるかとも思ったが、これに関しては嬉しい結果であった。

ちなみに僕のようなケース上部に電源を取り付ける場合、写真のように「PRO87+」というロゴプリントが天地正常な向きに位置しているが、
仮にケースの下面に電源を置くタイプの場合であっても、反対面に上下逆向きにロゴがプリントされているため、やはり正常な向きで「PR
O87+」が表示されるようになっている。


↑余ったケーブルは意外にすんなりとまとめることができた。






↑電源が下置き配置の場合でも、写真のように「PRO87+」のロゴは正常な向きに位置する。

無事に取り付けが完了し、早速PCを立ち上げてみる。
すると、電源本体に耳を近づけてみても内蔵ファンの音は全くといって良いほど聴こえない。
それもそのはずで、このファンは最高効率を発揮する負荷50%時でも、最低回転数330rpm(9dB以下)で動作するとメーカーサイトに記され
ている。
実際、普通にパソコンを使っている状態ではファンの形が目で追えるほどゆっくりと回っているのだ。
また発熱も少ないため、空気の排出口に手を当ててみても、ほんのりと生温かい風が排出されているだけだ。

いざ電源を交換しても、普通に使用している限りはその違いを大きく体感できないところは若干寂しいが、将来的にグラボを最新のミドルレ
ンジタイプに交換したり、HDDを増設するような機会が訪れたとしても、余裕で対応できるようになったことはやはり大きな安心感となる。


【最後に】
総出力的には余裕がある電源を積んでいるはずなのに、高負荷を掛けるとPCがフリーズしたりブルースクリーンを発して落ちてしまうような
症状に悩まされている方や、これからHDDやグラフィックボードの増設や交換を計画している方。
もう一度、使用している電源の12V容量をチェックしてみることを強くお勧めします。
(記:2010年8月6日)


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