ギブソン・レスポール・スタンダード(SG) 1963年製

1963 Gibson Les Paul Standard (SG)





<Photo :とんかつサンド>



【リアルなSGを探し求めた結果、ヴィンテージに行き着いた】
 僕は今までに数々のギターを所有してきたが、その中で常に気になってはいたものの、一度も所有した事が無いモデルの一つにギブソン・SGがある。
やはりギブソンと言えば、1950年代から1960年までに製造されていたレスポール・モデルに気持ちが向いてしまい、これまでSGを購入するまでには至らなかったのだ。
しかし、2014年製のヒスコレ・レスポール1958リイシューの出来が素晴らしく、これに満足してしまった僕は、いよいよSGスタンダードの入手を本気で考える事に、、、。

と言う事で、僕がSGに求める理想の条件は以下の4点。

・チェリーレッドのスタンダードモデル(フェイデッドカラー含む)
・スモールピックガード
・クルーソンペグ(Min-ETune付きは問題外)
・ヴァイブローラ付き(できればロングヴァイブローラよりもサイドウェイ・ヴァイブローラがベスト)

以上となっており、最初の3つの条件については多くが該当するのだが、最後の「ヴァイブローラ付き」の条件によって一気にタマ数が絞られてしまい
更にサイドウェイ・ヴァイブローラ付きともなれば、リイシューモデルでの市場在庫はほぼゼロ。
本来、60年代のSGにはヴァイブローラーが標準装備されていたのに対し、レギュラーラインの「SG '61 Reissue」ではストップテールピース仕様が標準となっている点が不満であった。
では、ギブソン・カスタムショップ製ではどうか?と言う事になるが、こちらの場合は「一体、何年製のリイッシュなのか?」と首を傾げたくなるほど、搭載されているパーツやネック形状等の仕様年度設定(?)がバラバラであり
細部までリアルに再現された50年代レスポール・モデルのリイッシューに比べ、明らかにいい加減な仕様で構成されている。
このように、ギブソン自体が本気でSGのリイッシュを作っていない事も、今まで購入を躊躇してきた理由の一因でもあるのだ。

そんな中、あるショップのウェブサイトに掲載されていたSGの画像を見た瞬間、一気に一目惚れしてしまったのが、今回ゲットした1963年製のレスポール・スタンダード (SG)。

このレスポールSGについてショップの店長さんに詳細を問い合わせてみたところ、こちらはネック折れ修正跡も無く、ピックアップもオリジナルの初期「ステッカード・ナンバードP.A.F」がフロント、リア共に搭載されているとのことであった。

このギターについては、ボディ・トップのチェリーカラーがかなり退色している事と、ボディサイド&バックには塗装の剥げがあり、
また、コントロールポッドやナット、木ネジ、エスカッション等の小部品はリプレイス品に交換されている(一部パーツはオリジナルも付属)こともあり、お値段的には比較的リーズナブルな価格が設定されていた。
(それでも、ちょっとした中古車が買えてしまう金額だが、、、。)

しかし、僕にとっては不自然に綺麗なコンディションよりも、適度な退色や剥げがあった方が時間の経過を感じる事ができ、むしろカッコイイと感じていた。

そんなこんなで1〜2日ほど悩んでしまったが、このチャンスを逃したら、もう二度とヴィンテージSGを購入する事は出来ないだろうと判断し、思い切って購入を決意した(汗)

ちなみにギブソンのレスポール・スタンダードと言えば、多くの方が1950年代から1960年にかけて製造されていた、シングル・カッタウェイ&アーチドトップボディのギターを連想されると思う。
しかし、61年の発売当初のモデル名は「SG」ではなく、 「Les Paul model」として販売され、1963年の途中から正式に「SG」と名付けられるようになる。


【搭載ピックアップについて】
 ところで、この63年製レスポールSGに搭載されているピックアップである、初期「ステッカード・ナンバードP.A.F」とは、一体どのような代物なのか?
1960年製のバースト・レスポールに搭載されていたピックアップは、ベースプレートに「PATENT APPLIED FOR」のデカールが貼られた、通称「P.A.F」と呼ばれているもの。
これに対し、内蔵されている磁石を若干短く変更したものが61年当初のレスポールSGには搭載されており、このピックアップにも「PATENT APPLIED FOR」のデカールが貼られていることから
「P.A.F」と呼ばれているが、厳密には「ショートマグネットP.A.F」として区別されている。
しかし、60年までのバースト時代の「P.A.F」とは磁石の長さが異なるものの、実際には50年代に製造されていたピックアップの仕様のバラつきを考慮すれば、
音の違いとしても、そのバラつきの中に十分吸収されるレベルとの見方が強い。

やがて、62年の途中から75年頃までに製造されたピックアップには、ベースプレートに貼られたデカールが「PATENT APPLIED FOR」から特許番号が記された「PATENT NO 2,737,842」というデカールに変更される。
これらは「ステッカード・ナンバードP.A.F」と呼ばれているが、その中でも65年中頃くらいまでに製造されたピックアップは初期「ステッカード・ナンバードP.A.F」(もしくはスクエアウィンドウ)などと呼ばれており
ピックアップそのものは、61年製のレスポールSGに搭載されている「ショートマグネットP.A.F」と実質的に同じものである。
この初期「ステッカード・ナンバードP.A.F」はe-bayにて1,000ドルから2,500ドル程度の金額で取引されている(汗)


【53年間もの歳月を経た本物が放つオーラに圧倒】
 さて、我が家に届けられたレスポール(SG)スタンダードのオリジナル・ハードケースを開けた瞬間、その凄まじいオーラに圧倒された。
ボディトップのチェリーレッドは殆ど退色し、ヘッドとボディ全体にビッシリと入ったウェザーチェックやボディサイド&バック部にも塗装の剥がれが多数見られるなど、
製造から53年間もの年月を経てきた本物から滲み出る強烈なオーラは、人工的に施されたエイジド処理とは一線を画すものだ。

早速手に取ってみると、まずその軽さに驚かされる。
EVHのWolfgangも軽いと思ったが、このSGはそれよりもはるかに軽く感じられる。
一般的に言われる、「ヘッド落ち」に関しては、約0.5kg近くもあるサイドウェイ・トレモロが装備されている事もあり、ヘッド側が垂れるような感じも無く、バランスは良い。
ネック厚もかなり薄く、その薄さたるや、ヒスコレ・レスポールの58や59リイシューとは比べものにならない。
どちらかと言えば、EVHのWolfgangのネックに近いと感じた。
指板材は勿論ハカランダ材で、近年製造の個体に多く見られるような、色の薄いスポンジーな杢とは違い、長い年月によって滲み出た油脂による艶と、ギュッと詰まった杢が独特の雰囲気を醸し出している。

さっそく我が家のマーシャル1959SLP&1960AXにプラグインして弦を掻き鳴らしてみると、、。

1弦ごとの音の輪郭がはっきりしており、多くの倍音を含んだ独特の枯れたトーンは圧巻。
ボディの構造上、メイプルトップ&マホガニーバックの初代レスポールモデルほどの低域成分は含まれてはいないが、その分、中域の盛り上がり感と高域のきらびやかさが目立つ印象。
音が良い悪いという以上に、正しく、今までにレコードやCDなどで耳にしてきた“あの”音が、目の前のキャビネットから出力されている事に感動してしまった。
やはり、SGスタンダードとマーシャル1959との組み合わせは鉄板だ(苦笑)

ちなみに、このSGに搭載されているトレモロユニットは、61年から63年途中まで標準装備となっていた、サイドウェイ・タイプとなっているが、
このトレモロユニットは完全な「飾り物」で、わずかにビブラートをかけただけでも、チューニングはズレズレになる(汗)
しかし、機能云々ではなく、このユニットを含めたデザインがカッコイイのだ(苦笑)

今回は、このような見事な1963年製のヴィンテージSGを入手することができて、本当に幸運であった。
この大変貴重な1本を、いつまでも大切にしていきたいと思う。
(記:2016年3月5日)



↑ハカランダ独特の詰まった杢と艶が雰囲気たっぷり。
また、50年代のビンテージ・レスポールと同様に、指板面とバインディングのエッジ部分には絶妙なアール(丸み)が付けられている。 



↑ピックアップはフロント、リア共にオリジナルの初期「ステッカード・ナンバードP.A.F」。
 


↑購入時に装着されていたエスカッションは、60年代後期以降のレギュラー品(1968 LP Custom〜)に使用されていた厚みの薄い(約9.4mm)タイプであったが
 本来、60年代スモールピックガード期のエスカッションはトールタイプ(約12.3mm)であるため、ページトップの画像撮影後、リプレイス品からオリジナル品に交換。
 また、木ネジもクロームタイプからオリジナルの黒染めタイプに交換した。





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