オーディオテクニカ ダイナミックヘッドホン ATH-W1000X「Grandioso」

audio-technica ATH-W1000X 「Grandioso」




(注:下記のレビューはあくまでも私が個人的に感じたものであり、その感じ方には個人差があることをご理解願います。
   また、個人による感じ方以外に音源の質や接続機器等、再生環境によっても大きな差が生じる点もご理解願います。)

(撮影:とんかつサンド)   (2012年2月26日:内容更新)



【最近導入したサウンドカードのヘッドホンアンプ部の出来が良いので、、、】
先日導入したPC内蔵型のサウンドカード、Sound Blaster X-Fi Titanium HDのヘッドホンアンプから発せられる音質があまりにも良
い為に、これまで使用していたヘッドホン達よりも更に上質なヘッドホンとの組み合わせを試してみたいという欲求が出てきた。
ちなみにこれまで使用していた主なものは、オーバーヘッド型ではSONY MDR-CD580、audio-technica ATH-AD700。
その他は耳掛け式としてVictor HP-AL202、audio-technica ATH-AQ700、同 ATH-EW9などで、これまではEW9が大のお気に入り
となっている。

Titanium HDのレビューにも書いたように、EW9とTitanium HDの組み合わせにおいても初めて音を聴いた直後に鳥肌が立ったほど
素晴らしいものであった。
しかしEW9を含め、今現在僕が持っているヘッドホン達ではTitanium HDの実力を発揮しきれていない様子が伺えるため、更なる上
質なヘッドホン探しを始めたという訳だ。

(ちなみに、Titanium HDのレビューは→こちら

僕の住む街と周辺の街には高級ヘッドホン類を試聴用に展示しているショップが無く、40kmほど離れた場所にあるショップにまで足
を運ぶことで、オーテクのATH-A2000X、A1000X、AD1000、W1000X、VictorのHP-DX1000、DENONのAH-D2000、AH-D5000と
いった高級な部類のヘッドホン達を試聴することが出来た。
この中では(僕的に)W1000Xが頭一つ抜き出ていた感があったことは事実なのだが、音源がエンヤのアルバムとスティングのアル
バムであったことと、CDプレーヤーからオーテクのAT-HA2を通して分岐接続されていた状態であったので、果たしてこの場での試
聴結果が本当に適正なものであるかという点には大きな疑問があったのだ。

それから数週間、自分なりに様々なリサーチを行った結果、結局このATH-W1000Xを購入したという訳だ。
さて、このW1000X、カタログ写真で見る印象ではハウジングに艶っ気が無く、くすんだ色味の冴えない感じに見えてしまうのだが
実際には表面がヌルヌルテカテカなグロス(艶あり)仕上げになっており、木の持つ自然な木目と色合いを生かした塗装が良い感じ。
僕としては、少々不自然な赤色に塗装されていた感じのする先代のW1000よりも上品で落ち着いた雰囲気が好きだ。
尚、W1000Xのハウジングをデザインするにあたり、肩のエッジラインや塗装の風合いなど、ヴァイオリンの雰囲気を意識してデザイン
しているとのこと。



↑化粧箱はブラックで精悍なイメージ?。



↑扉を開けた状態。



↑インナーを出した状態。



↑ウイングサポートは布張りのスポンジで、イヤパッドは合成皮革製。
個人的にイヤパッドにはラムスキンを採用してほしかったところ。



↑ハウジングはカタログで見るよりも艶々仕上げになっている。


【ヘッドホンリスニングの環境について】
僕のヘッドホンリスニング時の環境は、自作PCにSound Blaster X-Fi Titanium HDというサンドカードをPCI Expressスロットにセットし、
このサウンドカードのフロントパネル(PCケース的にはリアパネルになる)に装備されているヘッドホン端子にW1000Xを繋げている。
尚、W1000Xの挿し込みプラグは6.3mm標準プラグの固定式なので、別途に6.3mm→3.5mm変換プラグを使用している。
ドライバはオーディオモードに設定し、全てのエフェクト類は無効化し、当然イコライザもスルーさせている。
再生データに合わせ、出力形式も最高の24bit/192kHz出力にセットしている。(サウンドカードも対応)
再生ファイルは可逆圧縮のFLACファイル(16bit/44.1kHz〜24bit/192kHzまでの様々なジャンル )をVLCプレイヤーにて再生。



↑挿し込みプラグのスリーブも木製となっているが、木目がマホガニーっぽい?
本製品だけでは3.5mmプラグには対応していないので、必要ならば別途に変換プラグを用意しなくてはいけない


【僕にとっては全てが完璧な音質】
バーンインを全く行っていない開封直後の時点では高域が耳に突き刺さる感じがして若干暴れ気味であったのだが、10時間以上の
バーンインを行うことでその現象は解消された。
で、ことTitanium HDとW1000Xの組み合わせに関して言わせてもらうと、恐ろしいほどの「完璧な音」としか良いようが無い。
低域は十分な量を出力していながらボワつくことはなく、引き締まった質量感のあるものになっている。
開封当初は若干ギラつき感のあった高域も、バーンインが進むに従い、耳に優しい落ち着きのある高域になった。
中域はこれらの低域と高域に負けておらず、かといって主張しすぎるわけでもない実にバランスに優れたものになっている。
同じ Titanium HDとの接続であっても、ATH-AD700では中域が薄く奥行き感に乏しいものであったのが、このW1000Xにおいては僕
的には完璧なものとなっている。
僕がこれまでに使用してきた、或いは試聴してきた多くのヘッドホンに関して「この部分がもう少しこうなれば、、、」という思いが全て
解消されたものになっている。

特にアコースティック系の楽器の表現力は息を呑むほどであり、電子楽器では物理的に出力されない帯域も、人の耳で聴こえる範囲
の音に関しては破綻することなく上手に出力している。
普及価格帯の製品の場合、コントラバスの4弦のローポジションの音や、ピアノの高域鍵盤の音、力強く吹かれたピッコロの音などは
破綻することが多いのだが、このW1000Xではそれらのを見事に表現できているのだ。
数々のレビューの中には木製ハウンジグっぽさがあまり感じられないというコメントをしている方もいるが、アコースティック楽器のハリ
のある生々しい表現の中に僕は木製ハウンジングっぽさをしっかりと感じる。

また、このW1000Xは苦手な音楽ジャンルが無い様子で、ジャズは勿論、クラシックやロック、テクノ系も見事なまでの表現力を持って
いる。
アコースティック楽器などの生音系が生々しく再現できるヘッドホンの場合、多くはロック系のディストーションのかかったギターやシン
バル音などが耳に刺さるように感じられる事が多いのだが、それらも耳に突き刺さることの無い自然な出音になっている。
また、音の一粒一粒の再現力にも優れており、結果的に解像感の向上にも大きく貢献している。

音場も意外と広く、このヘッドホンのタイトルでもある「Grandioso」(壮大に、堂々と)が正に相応しいものとなっている。
決して篭ることが無く、かといって尖りすぎず、実の詰まった元気で丁寧な出音とでも表現したら良いのだろうか?
密閉式にありがちな閉塞感はあまり感じられない。
出音のベクトルとしてはEW9と同じ方向性であり、EW9を更にスケールアップさせたかのようなものになっているので、僕のように耳掛け
式のEW9を気に入っているならば、おそらくこのW1000Xも気に入ることが出来ると思う。


【映画鑑賞でも良い感じ】
音楽鑑賞に関しては十分なものであるが、映画鑑賞ではどうなのか試してみた。
作品はDVD版のエクスペンダブルズをTitanium HDのエンターテイメントモードに設定し、バーチャルサラウンドを使用した。
ちなみに僕は本作品を実際に映画館で観ている。

デフォルト状態では今ひとつ迫力に欠ける音質であったのだが、ドライバ内にあるトーンコントロールを調整することでラウド感溢れる音質
に改善された。
作品序盤のハーレーダビッドソンの唸るような低いエンジン音や、後半の銃撃戦で発せられる銃器の重い音(パン!パン!ではなく、ダン
!ダン!という感じの発射音)などが、劇場で聴いた音に近い音質で再現された。
ということで、映画鑑賞においても十分満足できることが確認できた。





【iPod nanoに直挿しした場合】
ちなみにW1000XをiPod nano(5th)に直挿しした場合、当然ながら上記環境での音質よりも幾らか劣ってしまう。
Titanium HDとW1000Xの組み合わせを10点とした場合、iPod nano(5th)に直挿しでは6〜7点といったところであろうか?
しかし、それでも一般的なイヤホンやヘッドホンよりは明らかに高音質であり、仮にヘッドホンアンプも何も使用せずに、iPodだけしか
持っていない方が屋内リスニング用にこのW1000Xを入手したとしても決して無意味ではないと思う。
(但し、6.3mm→3.5mm変換プラグか変換ケーブルは必要)


【装着感について】
装着感についてはこれまでのオーディオテクニカ製品がそうであるように、実に軽やかで重量感や圧迫感を殆ど感じさせないものに
なっている。
時間が経つとヘッドホンを装着していることを忘れるとまでは言わないが、オーバーヘッド式であるのについ頭を掻いてしまうことがあ
る。
それだけ、特に頭部には違和感が無いということでもある。


【最後に】
このページの冒頭にも書いたように、音響機器というものは人による様々な環境の違いによって大きく印象や評価変わるものであり、
実際にネット上でのW1000Xに対する評価も千差万別だ。
しかしあくまでも僕にとってはこれまでに出会ったことの無い、痒い所に手の届く素晴らしいヘッドホンであることは確かだ。
音の良さもさることながら、美しい木目が放つ高級感も相まって所有することの悦びも堪能することが出来る貴重なヘッドホンであると
思う。
(記:2011年4月10日)


【↓2011年4月21日追加情報↓】(ハウジングの前期タイプと後期タイプについて)
このATH-W1000Xについて色々と調査している方ならば、当ヘッドホンのハウジングには前後期タイプが存在していることはご存知だ
ろうと思う。

本件について知らない方のために説明をさせて頂くと、このATH-W1000Xが採用しているブラックチェリー材のハウジングにはマグネシ
ウムフレームとの合わせ面に4箇所(左右で計8ヶ所)の切り欠き孔が開けられている。
ハウジングを正面に向け、ヘッドバンド(?)を上に向けた状態(ハウジングに印刷された文字が水平なる状態)で見た場合、時計の短
針の位置で1:30と4:30と7:30と10:30の4ヶ所だ。(解りにくい?)
実際にはマグネシウムフレームの外枠に隠れるか隠れないか程度の高さに開けられているので、意識的に見ないと気が付かない。
この孔はW1000Xのサウンドチューニングのため意図的に開けられているもので、これがW1000X独特の密閉型っぽくない開放的な音
場づくりに貢献している。(オーテクのサービスマンに確認済)
つまり、このW1000Xは純粋な密閉型ではないということになるのだ。

この孔の形状の違いによって前期型と後期型とに区別され、前期タイプは半円型で、後期型は長方形となっている。
ちなみに上の4月10日に書いたレビューは前期タイプによるものだ。

ここでひとつ気になる事は、この前期型と後期型とで音質が全く異なるという噂(?)がある。
そこで実は、今回あるトラブルによって後期型のW1000Xの音も聴き比べることができたので、今回はこの件についてリポートしたい。

まずは下の写真を見て頂きたい。

比較しやすいように出来る限り同じアングル、同じ大きさに撮影したもので、左が前期タイプで、右が後期タイプとなる。
どちらも合わせ面側の切り欠き底辺部分の長さはほぼ同じで、前期タイプはそこから弧を描くように半円になっており、後期タイプは直角
に立ち上がって長方形の孔になっている。
切り欠き深さ(孔高さ)はほぼ同じか、後期型が若干浅い(低い)ように見えるが、これは加工誤差の範囲かもしれない。
この形状差の関係で、孔面積としては後期型の方が若干広くなっていると思われる。




↑画像は意図的に切り欠きが目立つように撮影しているが、実際には注意して見ないと判らない。


で、肝心の音質の違いについてであるが、、、、、。
う〜〜〜ん、、、。
後期タイプの方が70Hz付近の低域が気持ち厚みを増しているようにも思える、、、?
しかし、これが切り欠き形状の違いによるものなのかどうか?

実はギターの沼に深くハマり込んだことのある、あるいは木製の楽器に詳しい方ならば、ここである事が頭に浮かぶ。
それは「楽器に使われている材が若い場合、楽器の鳴りが重くなる」という点だ。
つまりどういう事かと言うと、楽器などに使われる木材はある程度乾燥させて含水量を調整した上で楽器として加工されるのだが
そこから更に時間が経過していくごとに材に含まれる水分が抜けていき、いわゆる「材が枯れた」状態になっていく。
これが、出来立ての新しいギターよりも、製造から数年が経過したギターの方が「良く鳴る」といわれる大きな要因であり、実際にカタログ上
は同じ型番、同じ材質、同じピックアップのギターであっても、全く同じ鳴り方をするギターは無いとまで言われているのだ。
特にアコースティックギターは、湿度の高い夏と空気の乾燥している真冬とでは顕著に鳴りが異なり、同じギターでも冬場の方がよく鳴るよ
うになる。

そこで、前回レビューした前期タイプは少なくとも今回僕が使用した後期タイプよりもハウジングが枯れている筈で、更に言うと今回の後期タ
イプのハウジングはなんと、このレビューを書いている3日前の4月19日にオーディオテクニカに入荷し、翌20日に組み上げた製品なのだ。
(実はあるトラブルが原因で、新たに左右のハウジングを組み直してもらったのだ。)
この後期型ハウジングが実際にいつ木工加工されたものかは定かではないが、前期タイプのものよりも新しいことは確実だろう。
つまり、前期タイプのハウジングよりも新しいハウジングの方が若干水分を多く含んでいることでハウジングの響きに若干の差が出ているの
かもしれない。
(一応、試しにしばらくの間、W1000Xを湿度40%のカメラの防湿庫へ保管してみることにしました。)

まあ、いずれにせよ本件に関しては大きくサウンドキャラが異なるという程のものでもない事は事実で、私なりの結論を述べさせてもらうと、
前期も後期もどちらが良いとは言い切れない誤差レベルの違いで、基本的に4月10日に書いたレビューの印象は後期型でも変わらない。
強いて言えば、後期型の方が若干切り欠きが目立ちにくい形状になっているということくらいだろうか?
これから新たにW1000Xを手にした方のものが前後期のどちらかであっても、全く気にしなくても良いレベルだと思う。


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