オーディオテクニカ ダイナミックヘッドホン ATH-W5000「Raffinato」

audio-technica ATH-W5000 「Raffinato」




(注:下記のレビューはあくまでも私が個人的に感じたものであり、その感じ方には個人差があることをご理解願います。
   また、個人による感じ方以外に音源の質や接続機器等、再生環境によっても大きな差が生じる点もご理解願います。)

(撮影:とんかつサンド/しまじろう)    「2011年9月23日内容更新」



【オーディオテクニカの密閉型フラッグシップを試す】
先日購入したオーディオテクニカの密閉型ダイナミックヘッドホン、ATH-W1000Xの音があまりにも素晴らしいものであったので、W1
000Xの先代ウッドモデルであり、現行密閉型のフラッグシップともいえるATH-W5000の存在が気になってしまった。
ということで早速W5000を入手したので、レビューをしてみたい。

オーディオテクニカの場合、高級グレードのオーバーヘッド型の製品は全て扉付きの化粧箱を採用しているが、このW5000には化
粧箱が存在しない。
その代わり、まるでスーツケースを小型化させたかのような重厚な専用ケースにW5000が収められており、この専用ケースごと無
地ダンボールに収納されている。
そのため、W1000Xなどは、店頭に展示か在庫があれば、化粧箱に収められた状態のままハウジングの木目の模様を確かめるこ
とはなんとか可能だが(それでもハッキリとは見えないけど・・・)、このW5000を新品で購入する場合に関しては、梱包状態の性質
上できない。
つまり、仮に複数台のW5000が店にあったとしても、その中から自分の好みに合った木目の1台をチョイスして購入するということは
できないのだ。

このハードケースはW5000の高級感の演出や所有欲を満たすのに一役買っているとは思うのだが、逆にケースはオプションにして、
ヘッドホンの販売価格を幾らかでも安く設定してもらいたかったと思うのは僕だけではないはずだ。

実際にヘッドホン本体を手にとって見ると、先ず黒檀材のハウジングの素晴らしさに見とれてしまう。
ギター沼にハマった僕としては、黒檀というと真っ先にギブソン・レスポールカスタムに使用されている指板材が頭に浮かぶ。
いわゆるエボニー材だ。
近年のマーチン・アコースティックギターの高級モデルの指板やブリッジにも使用されている貴重で高価な材でもある。
驚くべきことに、このエボニー材は硬くて重いため、木材でありながら水に沈んでしまうらしい。
また、硬いわりに割れやすいことから加工も大変難しいため、このハウジングの形状に加工するのは容易ではなかっただろうと想像
できる。



↑化粧箱は無く、無地ダンボールが外箱となっている。



↑ダンボールの中には豪華ハードケースが収められている。



↑ケースを開けると、中にはW5000が収められている。
 その雰囲気はまるで箱入りの高級ブランデーのようだ



↑ウイングサポートは布張りのスポンジで、イヤパッドはスペイン産ラムスキンを採用。



↑エボニー材を使用したハウジングは、半艶仕上げの極薄塗装となっている。



↑挿し込みプラグのスリーブは金属製のスリーブを採用(アルミ?)。
W1000Xと同様に本製品だけでは3.5mmプラグには対応していないので、必要ならば別途に変換プラグを用意しなくてはいけない。





ところでこのW5000であるが、ネット上の評価は実に賛否両論な意見が多く、最高と評価されるか、最悪と評価されるかの両極端だ。
本機の購入を検討する場合、近場に本機を試聴できる環境にある方なら問題は無いが、試聴が出来ない者にとっては、これら錯綜
気味の情報と高額な販売価格などの理由からいま一つ踏ん切りがつかず、購入に踏み切れぬまま諦めてしまう方も多いだろう。
そんな状況にある製品のせいなのか、市場ではいま一つ人気が無いようだ。

ネット上の様々なレビューを調べると、このW5000の音の傾向として下記のような意見が多い。

・低音が弱い
・カマボコ型(中域だけが突出しており、少々不自然)
・解像感は素晴らしいが冷淡な音
・ウッドハウジングらしさを感じない
・良くも悪くも上流の音をありのまま再現させるヘッドホン
・中高域の艶っぽさは素晴らしい

で、実際に僕が聴いてみた感想は、、、。


【実際に聴いてみた感想は?】
今回の試聴環境は前回のATH-W1000Xと全く同じ。
自作PCにSound Blaster X-Fi Titanium HDというサウンドカードをPCI Expressスロットにセットし、このサウンドカードのフロントパネル
(PCケース的にはリアパネルになる)に装備されているヘッドホン端子にW5000を繋げている。
尚、W5000の挿し込みプラグは6.3mm標準プラグの固定式なので、別途に6.3mm→3.5mm変換プラグを使用している。
ドライバはオーディオモードに設定し、全てのエフェクト類は無効化し、当然イコライザもスルーさせている。
再生データに合わせ、出力形式も最高の24bit/192kHz出力にセットしている。(サウンドカードも対応)
再生ファイルは可逆圧縮のFLACファイル(16bit/44.1kHz〜24bit/192kHzまでの様々なジャンル )をVLCプレイヤーにて再生。
それと、自作ヘッドホンアンプにiPod nano(5th)をDockケーブル接続させた場合とiPod直挿しも併せて検証した。
ちなみにW5000は100h以上のエージング済だ。

ちなみに、Titanium HDのレビューは→こちら

ATH-W1000Xのレビューは→こちら

一聴してすぐに気が付くのは解像感の高さ。
そしてW1000Xと同様に密閉型らしからぬ広い音場だ。
この解像感と音場の広さに関してはW1000Xをふたまわりほど上回っている印象。

しかし長時間聴き続けていくうちに、このW5000のやや癖のある周波数特性が耳につくようになってきた。
というのも、女性ボーカルのアルバムを聴いた時に、ボーカルだけが近場で歌っているかのような状態になるのだ。
それ以外のアルバムに関しても、ある特定の帯域が突出し、逆にある一部の帯域がすっぽりと抜けているような感じが常につきまとう。
グラフィックイコライザーを使用して確認をしてみると、どうやら1kHz付近の帯域が盛り上がり気味になっているようだ。
これが多くの方から「カマボコ型」と表現される周波数特性で、試しに2〜3kHz付近の帯域を2〜3dB程度下げてみると幾らか自然な出
音になった。

それとW1000Xと比べ、全体的に音の厚みに欠ける感じがする。
例えばバスドラムの重量感がありながらマットに弾むような「ドッ!」という音と、エレキベースがアンプのスピーカーキャビネットを箱鳴り
させて響くような低音が(W1000Xに比べ)上手く再現されない印象。
しかしここで誤解してほしくないのは、決して低域が不足しているということではなく、何となくW1000Xに比べて低域の表現が少々不器
用で、全体的に薄くて軽い印象になってしまうということなのだ。
これが多くの方から言われている、低域が弱く冷淡な音質と評される所以なのかもしれない。

それにしても長時間W1000XとW5000を聴き比べていると、W1000Xは意図的にW5000とは逆のベクトルに音作りを持っていったように思
える。
W5000は繊細さと解像感を重視させ、対してW1000Xはトータルバランス性と重厚感を目指すことで、あえて両モデルの個性をハッキリと区
別させ、併売時にも互いのキャラが被らないようにしたのかもしれない。

装着感については、W1000Xよりもハウジングおよびフレーム径が大きいことから、(W1000Xに比べ)幾らか余裕がある。
(ハウジング根元のフレーム径はW1000Xが約103mmで、W5000は約110mmとなっている。)
耳周りへの圧迫感も殆ど無く、長時間の装着でもどこかが痛くなったり疲れを感じることは無い。


【最後に・・・】
最後にここでフォローする訳ではないが、上記のレビューはあくまでもW1000Xと比べた時の印象であって、AD700などの1万円前後の
ヘッドホンよりは格段に優れた出音であり、上記に書いた僕の不満点はあくまでも高いレベル同士の比較の中で出てくる不満だという
ことを断っておきたい。
実際、上ではエレキベースの音の再現が少々苦手とは書いたが、逆にウッドベースの弾むような表現はなかなか良い感じだ。
上でも書いたが、決して低域が不足している訳ではなく、上質で大人な雰囲気の低音を必要にして十分な量だけ醸し出している。
また、解像感の高さから来る、一音一音の分離感も素晴らしいものがある。
特にEddie Higgins TrioのBewitchedや、New York TrioのBegin The Beguineなどはかなり良い感じなのだ。
つまり、W5000は十分高音質なのだが、あくまでも僕にとってはW1000Xの方がより好みにマッチしていたと言うだけの事なのだ。

オーディオテクニカとして、これまでに無い繊細さと解像感を追求することを目的として完成した一つがこのW5000なのだろう。

また、このW5000と共に開発発売されているヘッドホンアンプ、AT-HA5000との組み合わせにて使用している方の多くは何の不満も無
いといったコメントが多いことから、やはりHA5000とのセットで揃えた方がベストなのだろう。

ちなみにヘッドホンアンプも何も使わずにiPod nano(5th)に直挿しした場合の印象はW1000Xと時の同様で、Titanium HDや自作ヘッド
ホンアンプに接続した時よりは劣るものの、それでも一般的なイヤホンやヘッドホンよりは明らかに高音質であり、仮にiPodだけしか持
っていない方が屋内リスニング用にこのW5000を入手したとしても決して無意味ではないと思う。
(但し、6.3mm→3.5mm変換プラグか変換ケーブルは必要)
(記:2011年4月30日)



↑右は今回の比較に取り上げた同社のATH-W1000X。
 両者は共にAT社が誇る2大ウッドモデルだ。
 ハウジング径はW5000の方がひとまわり大きくなっている。


【次回予告】

↑次回はゼンハイザー HD800のレビューをお届けする予定。


【↓2011年9月23日追加情報↓】
事後報告になってしまうのだが、実を言うとこのW5000は既に僕の手元には無い。
というのも、やはり2〜3kHz付近の帯域だけが強調気味になっているような周波数特性のおかげで、僕が聴く数々のアルバムで演奏さ
れている楽器たちがどうしてもリアルに聴こえないのだ。
フェンダーのストラトキャスターの図太いフロント・トーンや、ギブソンES-335の甘い音、マーシャルアンプのディストーション等々、、、。
(↑僕が実際に持っている楽器達)
音場の広さや解像感ではやや劣るものの、むしろW1000Xの方が楽器の鳴り方としては自然でリアルに聴こえるのだ。
また、HD800ではまるで目の前にその楽器があるのかと思うほどリアルに聴こえることもあり、余計にW5000の特異な音味が気になるの
かもしれない。(上流環境はいずれもDA-200 & P-1u)

ということで、(あくまでも僕にとっては)W5000は残念な結果となってしまった。


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