FiiO E1

iPhone/iPod専用リモートコントロール付きポータブルヘッドフォンアンプ






(撮影:とんかつサンド)



(注:下記のレビューはあくまでも私が個人的に感じたものであり、その感じ方には個人差があることをご理解願います。)


【ポタアンって知ってるかい?】
DAP(iPodなどのDigital Audio Playerの略)とイヤフォン(ヘッドフォンも含むが以下略)を使って音楽を聴く場合、多くの方々はDAP本体に
イヤフォンを直接挿し込んで音楽を楽しんでいると思う。
実際、僕もiPodとオーディオテクニカの耳かけ式ヘッドフォンATH-EW9との組み合わせに満足している。
しかし、オーディオに多少なりとも興味のある者にとって、たとえ少しでも音質向上の可能性がそこにあるのならば、できる範囲でその方法
を試してみたくなるものなのだ。

DAP愛用者が自分の好みに合うイヤフォンを手に入れた後、一部のユーザーは更なる音質向上を目指す為に手に入れようとするものがあ
る。それがポタアンである。

ポタアンとは「ポータブル・ヘッドフォン・アンプ」の略語であり、頭文字を取ってPHPAとも表現する。
このポタアンをDAPとイヤフォンの間に接続することにより、DAPから出力される音声信号を高出力&高音質化させるためのものである。
特にiPodの場合は本体が可能な限り小型化されており、また、コストの問題などから内蔵されているアンプ部には"それなり"なパーツが
使用されている。これに対しポタアンでは音質面に優れたパーツを採用し、スペース的にも制限の少ない回路設計が可能なため、iPod内
蔵アンプよりも音質面では有利となる。
また、iPodの場合、ミニプラグジャックから音声を出力させた場合は内蔵のボリューム回路を経てしまうのだが、Dockコネクタから出力させ
ることにより、内蔵のボリューム回路をスルーしたライン出力が可能となる。このラインシグナルをポタアンに取り込むことで、ヘッドフォンジ
ャックから入力させた場合よりも高音質となる。

しかしこのポタアン、国内の大手オーディオメーカーは勿論、世界的にも大量生産しているメーカーは全くと言っていいほど無い。
そのため、国内で使われているポタアンの殆どは海外のガレージメーカーから個人輸入したものか、国内の個人ビルダーによるもの、或い
はアンプ回路に詳しい方が自分用に自作したものが殆どである。(海外製品の輸入代行業者によるものもあるが、納期面や高額な手数料
等からあまり評判は良くない。)

これまでのポタアンの多くはアンプ本体がタバコの箱ほどの大きさがあり、DAPと重ねた状態で持ち歩かなくてはいけなかった。
そのため、何らかの操作をする際にはまるで無線機でも持ち歩いているかのような大袈裟な外観や、携帯性に若干の難があった。
(逆にそのメカニカルな外観がカッコいいということもあるのだが・・・)

また、価格の面でも大量生産が出来ずに手作りであることから個人輸入価格で3万円〜5万円程度が相場となっており、普通の人が気軽に
手を出す事が出来なかったのである。
(ちなみに、最近では上記の海外製品の中に1万円台のZippoサイズの本格ポタアンも登場しており、これが話題になっている。)

だが、最近のDAPの普及に伴い、ポタアンへの需要も高まってきた状況を受けて一部のメーカーが大量生産をしはじめてきた。
それが中国のFiioというメーカーである。

このFiioは2009年の春頃から低価格で小型のポタアンを発売し、3,000円以下という価格から国内でも密かな(?)反響を呼んだ。
その最新作がFiio E1である。





【Fiio E1について】
このE1は、これまでの製品がミニプラグジャックによる入力端子しか備えていないのに対し、上でも説明したDockケーブルによる接続となっ
ている。これにより、これまでは別途にDockケーブルを用意する必要があったのだが、E1ではその必要が無い。
そのため、このE1はiPhone/iPod専用となっている。

また、このE1にはボリュームや再生・停止、曲送り・曲戻しのコントロールが可能なリモコンが装備されているため、iPod本体をバッグやポケ
ットにいれたままでもこれらの操作が可能となる。
アンプの電源はiPodのDock端子から供給されるので、E1自体にバッテリーは必要無い。

日本国内ではオヤイデ電器という会社が正規代理店となっており、同社のネット販売では定価が3,500円(税抜き)に対し、2,940円(税込み)
で2009年11月20日から販売されている。

オヤイデ電気の説明によると、TexasInstruments製のオペアンプを搭載してハイクオリティな音質を実現したと書いてある。
TexasInstruments製のオペアンプについて調べてみたところ、海外製の有名どころのポタアンや、国内の自作派の方々の間でもそこそこ評
判の良い部品のようであった。




【Fiio E1を実際に使ってみた】
で、E1を手にした印象としては非常にコンパクトで、知らない人が見たらこの製品の中にアンプ回路が入っていることは気がつかないだろう。
実際にはDockコネクタの中にアンプ回路が入っているため、iPodの付属品のものよりもDockコネクタが若干大きくなっている。

リモコンには衣服などに固定させるためのクリックが備わっているが、口の開く角度が少なめなので、厚い生地の場合はちょっと挟みにくい
かもしれない。また、リモコンの表面が全て何らかのスイッチになっていることから、慣れていないとクリップを開く際に不意にスイッチを操作
してしまう。ここは一切の操作をロックさせるための「HOLD」スイッチを設けて欲しかった。
しかし、この点に関しては上手にスイッチを操作せずに取り付けるコツを発見した。

リモコンの操作スイッチはパネル中心を支点としたシーソー構造になっている。そこで、パネル表面の中心のあたり両端を人差し指と中指で
押さえ、反対のクリップ側を親指の先で挟み込むようにしてクリップを開けば、スイッチは一切反応しない。

リモコン自体の操作性はとても良好で、特にボリュームの調整に関してはiPod本体のクリックホイールよりも細かい調整が可能だ。
クリックホイールの場合は、ここだという位置で止めたつもりでも、指を離す際にクリックホイールが反応してしまい、狙った音量よりも微妙に
上下してしまう事があった。しかしリモコンによる操作ではそういった操作ミスは発生しない。
また、E1を接続している場合はiPod側では音量の調整が出来ず、リモコン側のみの操作となるが、ボリューム以外の操作はiPod側でも可能
となっている。


↑アンプ内蔵のDockコネクターをiPod nanoに接続した状態。
 コネクターの接合面とiPodとの間には約1ミリ程度の隙間があるのだが、ハードケースを使用している方は
 ケースとdockコネクター端面が干渉するかもしれないので注意が必要?



↑ボリューム調節、再生・停止、曲送り・曲戻しのコントロールが可能で
 新型の5世代iPod nanoにも対応している。



↑クリップの扱いには少々のコツが必要(?)


さて、最も気になる音質面での変化であるが、意外にもしっかりとした効果が感じられた。ちなみにイヤフォンにはオーディオテクニカのATH-E
W9を使用し、DAPにはiPod nanoの第5世代モデルを使用した。そして直挿しの状態とE1を経由した状態とで比較をした。

まず真っ先に感じられるのは、汚れたクルマを洗車してピカピカにしたかのように音像の輪郭がハッキリしてクリーンな音になったこと。
イコライザーなどで一部の周波数を増幅させたような類の変化ではなく、全体的に贅肉を落としたような引き締まった音になっている。
例えば同時に複数の楽器が入り混じって鳴っているような場合、iPod直挿しの状態では内部のアンプが上手に全ての音を再現しきれていない
と思われるシーンにおいても、それぞれが(直挿し時に比べ)解像している。
解り易い表現で例えるならば、MP3ファイルのビットレートを上げたようなイメージに近いかもしれない。
まあ、とにかく直挿し時よりも艶のある上質な音になっているのは確かだ。
しかし、それらは決して「劇的」ではなく、違いが感じ取れる最低限のところといった感じなので、過度な期待は禁物といったところだろうか?
だが、ヘッドフォンアンプ本来の目的である、出力を増幅させる効果については十分にあるので、高インピーダンスのヘッドフォンを使用している
場合でも十分なパワーを与えてくれるだろう。

上記の音質の評価に関しては、まだ使い始めて3〜4時間程度しかアンプ部の慣らしが終わっていないこともあり、これからバーンインが進めば
もっと良くなる可能性はあるかもしれない。

次に気になった点だが、iPodのバッテリーを利用することもあり、直挿しの状態に比べてバッテリーの消耗が明らかに早くなっている。
2倍まではいかないが、2〜3割は早く消費されているように感じるので、直挿しの状態でもバッテリーの持ちに不満のある方は注意が必要だろ
う。
それと、リモコンによって設定された音量は一度でもDock端子をiPodと切り離してしまうとリセットされてしまい、音量全体を10とすると2〜3程度
の音量になってしまう。そのため、Dockケーブルを接続する度に音量を上げなくてはいけない点に少々イラっとした。

その他ではケーブル長さが80センチもあるので、60センチケーブルタイプのイヤフォンを繋げた場合、身長180センチの僕がiPod本体をお尻側のポ
ケットに入れたとしてもケーブルには余裕がある。しかし胸元のポケットやネックストラップなどにiPod本体が位置する場合にはケーブルがかなり
余ってしまう。
このケーブルをミニジャックなどで後から自由に好きなケーブルを使用できるようになっていればもっと使い勝手は良かったと思う。

【その他】
実際に試してみるまでは大した期待もしていなかったが、意外に音質面でも効果が確認できたことは驚きであった。
それにしても、リモコン機能を備えた延長ケーブルにポタアンも内蔵して3,000円以下であることを考えると、お買い得感は高いと思う。
ちなみにこのE1とほぼ同機能を備えたポタアンがオーディオテクニカからも発売が予定されており、こちらもポタアンとリモコン機能を備えているの
だが、価格はE1の3倍の約9,000円ほどで、2009年12月中旬から発売が開始される。
しかし、後から出る製品なのにE1の3倍の価格設定ではちょっと厳しいのではないだろうか?

う〜〜ん、こうなると次は本格的なポタアンが気になるなぁ〜(苦笑)
(記:2009年11月28日)


【2009年11月29日追加情報】
今日は、日中iPod nanoにE1を接続して外へ出かけた。
iPod本体はジーンズのお尻のポケットに入れ、E1のリモコンを胸元に付けて1日過ごしていたのだが、想像以上にリモコンが便利だった。
選曲に関してはそれほど急ぐ必要は無いのだが、音量の増減や一時停止に関しては急を要する場合が多いことに気がついた。
特に人に声を掛けられた際、胸元のリモコンによって瞬時に一時停止に移れることのメリットはかなり大きかった。
(それならイヤフォンを外せば良いじゃん、ってのは無しで・・・。)
ということで、屋外での使用ではポタアンの存在よりもリモコンの方に大きなメリットを感じた1日でした。


【2009年12月11日追加情報】
先日のポータブルヘッドホンアンプ、Fiio E1の効果に気を良くした僕は、本格的なポータブルヘッドホンアンプ
を自作してみることにした。
その詳細についてはこちら。


【2011年5月追加情報】
2009年当初のレビュー記事において、「国内の大手オーディオメーカーは勿論、世界的にも大量生産しているメーカーは全くと言っていいほど無い。」
と書いてあるが、2011年5月現在では多くのメーカーから多種多様なポタアンが製造販売されており、多くのショップから簡単に購入することができる
状況になっている。


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