ヘッドフォンアンプ ラックスマン P-1u

Headphone Amplifier LUXMAN P-1u




(注:下記のレビューはあくまでも私が個人的に感じたものであり、その感じ方には個人差があることをご理解願います。
   また、個人による感じ方以外に音源の質や接続機器等、再生環境によっても大きな差が生じる点もご理解願います。)

(撮影:とんかつサンド/しまじろう)    (2011年8月26日内容更新)


【ヘッドホンアンプ界の若大将、ラックスマンのP-1uを入手した】
2011年7月15日に執筆をしたフェーズテック・EPA-007のレビューにおいて、ラックスマンのP-1uが震災の影響でどこにも在庫が無く、入手
が困難な状態であると書いた。
ところがその数日後、某有名オーディオショップのP-1uのショッピングページを覗いてみたところ「発送:即日」の表示が、、、。
そして次の瞬間、何故かPCモニター上には「注文完了」の文字が表示されていた。(苦笑)

ラックスマンのP-1uは、2002年から2009年まで販売されていた先代のヘッドホンアンプ、P-1の後継機にあたる。
この先代のP-1と同様に、P-1uも様々なオーディオ雑誌などで、ヘッドホン及びヘッドホンを使用した機器やアクセサリーの音質評価のため
のリファレンスアンプとして数多く登場しており、ヘッドホンマニアならば一度は使ってみたいヘッドホンアンプの代表機とも言えるだろう。

回路的には純A級動作方式の完全ディスクリート構成となっており、ラックスマンお得意の高音質帰還回路、ODNFバージョン3.0を搭載してい
るのが大きな特徴だ。
このODNFとは、音声信号を増幅していく過程で発生する歪成分を、再度増幅回路の入力に戻してしまうことで音質を向上させるものらしい。
(この帰還回路についての詳しい解説を読んでみたが、あまりにも専門的すぎて馬鹿な僕には理解不能であった。)

入力系統にはアナログRCA端子(アンバランス入力)とXLR端子(バランス入力)を装備し、フロントパネルのセレクターによって切り替えが可
能。
更にスルーアウトも備えることで、このP-1uを通したまま他のプリメインアンプなどへのスルー接続も可能となっている。

アンプ本体を実際に見てみると、その結構な大きさに圧倒される。
本体設置面積として見た場合、数値上では44cm×40.8cmとなっている。
このサイズをA3のコピー用紙と比較した場合、長手方向で2cm、奥行きで約10cmほどP-1uの方が大きい。

本体の重量は8.3kgとなっているが、実際に持ってみると数字以上の重さを感じる。
仮に店頭で購入した場合、バスや電車を利用した手持ちでのお持ち帰りはまず無理だろう。
外箱もかなり大きく、なんだかんだで10kg近い重さになってしまう為、外箱に取っ手を付けてもらったとしてもすぐに紐が切れてしまうかもしれな
い(苦笑)

付属品はシンプルに電源ケーブルと取説のみ。
しかしDA-200の時と同様に、電源ケーブルは結構しっかりとした品質のものが付属されている。
また、リアパネルの各端子には保護キャップが被せられている。

ケースの中を見てみると、ヘッドホンアンプとしてはかなり大きな部類に入る基板上に、ディスクリート部品の数々が整然とレイアウトされている。
増幅回路構成はフルディスクリートの3段構成となっており、放熱用のアルミブロックに載せられた出力段のパワートランジスタには、東芝製の
2SA1943と2SC5200が使われているようだ。
個人的にとても気になるのが、出力段のパワートランジスタの間に配置されている銅色のボリュームつまみみたいな部品。
エレキギターに興味のある方なら理解していただけると思うのだが、どうしてもマーシャルギターアンプのコントロールつまみに見えて仕方が無
い。(苦笑)



↑フロントパネル
 ヘッドホンジャックの右隣にあるインプットセレクターにより、XLRバランスとRCAアンバランスの接続を瞬時に切り替えが可能。 
 反対の左側にあるスイッチは、RCAアンバランス入力端子から入力された信号をスルー出力させるかさせないかを設定するスイッチ。
 ちなみにこのスイッチの位置に関係なくヘッドホンからは音声が出力される。
 また、電源オフ時にはスルースイッチの位置とは無関係にスルー出力される仕組みになっている。
 (注:XLRバランス入力信号をスルー出力させることは出来ない。)



↑リアパネル
 入力はRCAとXLRの両カプラーに対応しており、更にスルーアウトプットも装備する。
 


↑XLRバランス入力端子の間には入力位相切換スイッチがあり、これによってCOLDとHOTを入れ替えることが出来るのだが、僕には音の
 違いがよく判らなかった。



↑P-1uの内部。(画像をクリックすると、もう少し大きな画像が見られます。 :約1.41MB)
 


↑ラックスマン自慢の高音質帰還回路、ODNF3.0A。



↑マーシャルギターアンプのコントロールつまみに見えて仕方が無い謎の部品。(銅色の丸いヤツ)
 その両サイドにはパワー段(出力段)用のパワートランジスタが見える。


【レビュー環境について】
まずはレビュー時の環境について。(環境説明については殆どがDA-200 & EPA-007ページからのコピペです(苦笑))

今回のレビュー環境も前回のEPA-007の時と全く共通で、再生側の環境はDA-200のレビュー時とも基本的に同じ。
自作PCのOSはWindows 7 (32bit)で、CPUにはCore i7の860を、マザーボードにはギガバイトのGA-P55-UD3を使用している。
そのマザーボード上のUSB端子とD/AコンバーターのラックスマンDA-200をオーディオグレードのUSBケーブル(フルテックのFormula 2)にて
接続。
DA-200は純粋にD/Aコンバーターとして使用し、DA-200とP-1uの接続にはXLRケーブルによるバランス接続と、RCAケーブルによるアンバラ
ンス接続の両方を試してみた。

再生ソフトウェアにはfoobar2000を使用し、WASAPI排他モードに設定してWindowsのカーネルミキサーはバイパスさせている。
再生ファイルは、オスカー・ピーターソンやビル・エバンスなどのジャズを中心に、ロックやクラシックなど様々なジャンルのFlacファイルを再生。
(16bit 44.1kHz〜24bit 96kHzを使用)
使用するヘッドホンはゼンハイザーのHD800を中心に色々と試してみた。

ちなみにP-1u本体は、今回のレビューの時点で約60時間程度のバーンインを済ませてある。



↑今回のレビューに使用したUSB-DACのラックスマンDA-200とゼンハイザー・HD800ヘッドホンによる、変態さん向けセット(苦笑)
 


↑XLRバランス入力端子にはベルデンのケーブルをセット。
 その奥に見えるグレーのキャップがRCAプラグの保護キャップだ。


ゼンハイザー HD-800のレビューは→こちら
 
ラックスマン DA-200のレビューは→こちら

参考までに、フェーズテックのEPA-007のレビューは→こちら
 




【ハイエンドHPAであるP-1uの音とは?】
先ずはDA-200と本機をXLRケーブルにてバランス接続をし、HD800で聴いてみた感想から。

全体的にふくよかでマイルド、逆に鼓膜に突き刺さるような刺激は少なく、優雅で余裕のある出音。
しかし、それは決して音が篭っているという意味ではなく、解像感と明瞭感にもしっかりと優れ、倍音までも感じ取ることができる。
トーンバランスとしてはやや中低域寄りでありながら、高域にも自然でキレのある明るさを見せてくれている。
全体的な音色の傾向としては基本的にDA-200と似たバランスの周波数特性でありながら、低域をやや増強させた感じ。

DA-200内蔵のヘッドホンアンプと比較した場合、音場はP-1uの方が広く立体感があり、独特の残響感というか余韻があり、倍音までも聴き取
ることができる。
音の広がり方としてはDA-200の方がやや中央寄りで、P-1uの方はDA-200のそれよりも若干左右に広い。

特にアコースティック系楽器の生音の表現力には大きな違いを感じ取ることが出来る。
例えばベン・ウェブスターのサックスの場合、DA-200ではいわゆるテレビやCDなどでよく耳にするサックスの音がリアルに聴こえる感じである
のに対し、P-1uではサックス本体の金属チューブの中を空気が通過し、サックスのベル(音の出口)から排出された音である感覚が生々しく感
じとれる。
また、オスカーピーターソンやビル・エバンスなどでは、ウッドベースで弾かれた弦が、ボディ(箱)内の空気を震わせて共振させることで大きな
音として発せられている様子がリアルに伝わってくる。

そしてピアノ(特に低音鍵盤側)に関しては、DA-200では普通に鍵盤楽器としてリアルに聴こえるのに対し、P-1uではピアノの鍵盤の奥にある
ハンマーヘッドがフレームに張られた金属弦を叩き弾く事で音を発し、ピアノが実は打弦楽器であることをあらためて思い知らされる。
弦楽器独特の金属弦の震える様子と残響感、倍音を感じ取ることが出来る。

上記の印象にも通じることなのだが、DA-200やこれまでに経験したヘッドホンアンプの多くは、楽器から発せられた音がある時点からバッサリ
と消えていくのに対し、P-1uでは徐々に消えていく感じで、これが独特な残響感として感じられるのかもしれない。
何となくトランジスタアンプ臭さが少なく、真空管アンプっぽい印象。
それでいてソリッドステートアンプらしい解像感と広い音場も実現している。

そんなこともあり、個人的に凄いと思うのが、ハードロック系の曲中の演奏でよく使用されている真空管ギターアンプ(特にマーシャルアンプ)から
発せられるディストーションサウンドがとてもリアルで、独特の空気感を見事に再現している。
また、箱物のエレキギター(※)の独特な甘いトーンも実にリアルだ。
(※:フルアコやセミアコなど、ギター本体の中身が空洞構造になっているエレキギターで、ジャズやフュージョン系の音楽でよく使用される。)

比較的にどんなジャンルの音楽も無難にこなすが、特にクラシックとジャズは秀逸。
それでいて、YMOのような典型的な打ち込み系の音楽においてもしっかりとスピード感のあるキレを見せてくれる。
ただし、全体的な音味としては濃厚なバター風味(?)とも感じられる部分もあるので、好き嫌いが分かれる事にもなるかもしれない。

次にDA-200との接続を(DA-200)RCAアンバランス出力→(P-1u)RCAアンバランス入力に切り替えてみると、やや音場が狭くなり立体感が損な
われる。
これはP-1uの上流にあたるDA-200に関して、アンバランスRCA出力よりもバランスXLR出力の方が音質的に有利な回路構成になっていること
が大きな要因だと思われる。
しかし、それでも十分に高音質なもので、セレクターを瞬時に切り替えての比較によってなんとか判別できるが、セレクターがRCA入力側に設定
されたまま知らずに聴き始めたとしても、僕は気が付くことは出来ないだろう。(苦笑)

そしてヘッドホンをオーディオテクニカのATH-W1000Xに換えてみた。
このW1000Xはもともと中低域を力強く発するモデルなので、P-1uとの組み合わせではどうなるかと思ったが、実際は実にメリハリのある元気な
出音で、W1000Xの持つ特徴を実に巧く引き伸ばしている印象。

ちなみに今回のレビューは上にも書いたように約60時間程度の通電を経た後の感想なのだが、新品時の電源初投入時の場合は各ディスクリ
ート部品が活性化されていないためか、やや中低域が軽く感じられ、おおよそ30時間を越えたあたりから中低域に量感が出てきたということを
お伝えしておきたい。


【最後に】
前回のEPA-007が予想に反してDA-200への直挿し時と音質変化が感じられなかったのに対し、今回のP-1uでは特にアコースティック系楽器の
表現力が素晴らしかった。
また、立体的で奥行き感のある広い音場も良い感じなのだが、上にも書いたように、人や環境によってはこれらの特徴がかえって「しつこい」と
感じられる可能性もある。
(僕は、この濃厚さに関しては満足しているのだが、、、。)
EPA-007が原音を忠実に聴かせるアンプであるならば、このP-1uは音楽をゆったりと愉しむためのアンプと言えるだろうか?

それと前回のEPA-007の時にも書いたのだが、P-1uとの比較をしていくにあたり、今回もまたDA-200に内蔵されているヘッドホンアンプのクオ
リティの高さをあらためて知ることが出来た。
アコースティック系楽器の表現力に関してはP-1uに軍配が上がるものの、それは共に高い次元での差であり、音色の濃さにの違いついては人
の好みによる部分も大きいと思う。

D/AコンバーターにDA-200、ヘッドホンアンプにP-1uを導入したことにより、僕のヘッドホン&PCオーディオの上流環境の構築についてはこれ
で一旦完結したと言えるだろう。
尚、今後も何か変化を感じた際には追って追記していきたい。
(記:2011年7月22日)


(訂正)
本機に関する価格.COM上のレビュー投稿におきまして、レビュータイトルに「豊かな倍音と余韻を感じ取ることが出来るHPAです 」と記載すべき
ところを誤って「豊かな倍音と余韻を感じ取ることが出来るHDAです」としてしまいました。(誤→HDA  正→HPA)
レビュータイトルだけの修正が出来ないため、この場をもって訂正させて頂きます。<(_ _)>


【↓2011年8月5日追加情報↓】
P-1uを使い始めてからおおよそ250時間以上が経過した。
音質的な変化としては、上記7月22日時点のレビュー時に比べて若干ではあるが、音の立体感が更に増加している。
特にDA-200と瞬時に切り替えた際にハッキリと判るのだが、P-1uからDA-200に切り替えると、急に音場が平面的に感じられる。
この立体感のある音場は特にアコースティック楽器や管楽器を駆使した楽曲に恐ろしいほど良くマッチするのだが、"ながら作業"中に時折ハッと
するほどの生々しくリアルな音が耳から飛び込んでくることで、作業が一瞬中断してしまう事が多々ある。
従って、デスクワークなどのBGM用としてこれらの組み合わせによるヘッドホンリスニング環境を揃える事は決してお勧めできない。
つい聴き入ってしまう事で作業が全く先に進まないからだ(笑)


【↓2011年8月26日追加情報↓】
今現在、僕は主にPC→DA-200→P-1u→HD800という環境で音楽を堪能している。
2011年8月26日現在までのおおよその音出し総時間として、HD800→1,000時間、DA-200→800時間、P-1u→400時間といったところだろうか?
(それぞれ概算による合計時間であり、その膨大な時間には、音出しによるバーンインの時間も含まれています。)

現時点において、このシステムによる音質に関しては、その音を聴く度に溜息が出るほど感動させられるばかりで一切の欠点や不満点は思い浮か
ばない。

高音質の基準というものは人それぞれだとは思うが、あくまでも僕の場合は「いかに楽器が本物の音っぽく聴こえるか?」という点が基準になってい
る。
つまり、「僕は低音多目が好みなので〜」とか、「僕は低音あっさりめが好きだから〜」という観点(基準)での評価は基本的にしていない。
しかし実際に楽器の音を本物っぽく再現させるためには、特に中低域側に相当な広いレンジの音を出力させる能力が無いと実現は難しい。

たとえばその一例として、8月18日にBS局で放送されていた「モントルー・ジャズ・フェスティバル」のマーカス・ミラーのライブを上記システムで視聴し
たのだが、マーカスが演奏に使用しているフェンダー・ジャズベースが放つ3〜4弦の音を、実際のライブ会場や練習スタジオ、あるいは自宅での自
分の演奏以外にここまで本物っぽく聴こえたことはない。※1

正に、ジャズベースとEBSベースアンプの組み合わせが実際に目の前にあるかのようなリアルさだ。
勿論、本物っぽく聴こえたのはベースギターだけではなく、ドラムから放たれるロータムの独特な「ダムダム・・・」といった音や、シンセサイザー、サ
ックスらもこれまでに体験したことのないリアルな音で再現されている。※2
(※1、※2:今のシステムを構築する以前まではという意味で、現在は上記のライブ以外にも様々な高音質音源からリアルな音を体験できている)


↑マーカス・ミラーとフェンダージャズベース
 

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